山里暮らし交房「風結い」について



はじめに ―― 風と土が出会う場所

琵琶湖に注ぐ安曇川の中流域、比良山系北端の山麓にたたずむ「風結い」は、地域の農や食、山の恵みなどを体験する交流施設として、解体寸前の伝統的な古民家を移築再生して甦らせたものです。周辺は豊かな森林に囲まれ、長く耕作放棄されていた田んぼとともに再生された暮らし空間は、懐かしさとともに未来を感じさせてくれます。

地域に受け継がれてきた稲作や伝統食づくり、火のある暮らし、湧水の利活用、昔ながらの手しごとなどを地域住民と都市住民がふれあいながら体験することで、忘れ去られつつある地域に根付いたなりわいの本質に気づかされます。自然エネルギーを活用した暖房や給湯、素材や製法にこだわる食づくり、地域産木材を活かした空間など未来につながるこだわりを大切にしています。

また、たったひとつの建築物とういうハードだけに留まらず、農や食、森林、エネルギー自給、農山村の資源を活用した地域活性、若者定住、高齢者の生きがいづくり、都市と農村交流、ソーシャルビジネス、協働など多様なテーマや分野を横断しながら、老若男女の世代を超えた交流と連携による持続可能な暮らしを提供し、ここでしか体感できない“場所のちから”により、誰もが、おだやかでありながら実に贅沢な時間と空間に浸ることができます。

社会全体が、経済と情報の大きな波のうねりに翻弄される時代にありながら、淡々と繰り返される四季の移ろいと共に、ここで体感することのできる土に根差した昔ながらの暮らしの原点には、持続可能な真の豊かさと希望が眼の前にひろがっています。

建物について ―― 滋賀らしい、過去と現在、そして未来を体感できる。

山里暮らし交房 風結いは、長浜市にあった解体寸前の伝統的な築150年にもなる古民家を、現代の暮らしにも適応した空間として移築し、地域産木材を使って伝統工法によって再生した、欅(ケヤキ)で組まれた建物です。

地域の資源(土地、人、物、無形資産、想い)と都市のニーズ(安全な食、農、自然環境、健康、癒し)を結ぶ滞在型体験施設として、皆さまに広くご利用いただいております。

間取りは、大黒柱と小黒柱(夷柱)の間にある14畳の広縁を中心に玄関土間とキッチン、もう片方は、6畳の間が2部屋配されています。土間の下にはチューブ管が配され、薪ボイラーで沸かしたお湯を循環さすことによって、土間を温める床暖房の設備を設けています。6間×4間(1間は、1.88m)の平屋+ロフト、玄関土間に続く下屋(セルフビルド)も配しています。外部は8寸勾配の端正な切妻の大屋根が印象的です。

     

今となっては、なかなか手に入れることの出来ない1間半もある近江箪笥(水屋)を再利用するほか、信楽焼と集落在住の陶芸作家による手洗い鉢や高島在住のガラス作家によるランプシェード、冬場には欠かすことの出来ない薪ストーブ(ダッチウエスト社・エンライトラージ)や薪ボイラー(ATOウッドボイラー)による土間の床暖房システムなど、環境負荷の少ない新しい暮らし空間を実現しました。

無農薬田んぼ体験  ちまきづくり体験  味噌づくり体験  火のある暮らし体験

前述した通り、移築再生する際に使用した木材は、高島市産の無垢の木材を使用しています。また地域の山を維持管理し、間伐した木材を薪ストーブや薪ボイラーで「バイオマスエネルギー」として活用。そのほか、耕作放棄された田んぼの再生や農業体験、郷土料理体験による高齢者の生きがいづくり、地域在住の作家による手仕事体験など、農山村ならではの自然と地域に寄り添った暮らしを継承しながら、持続可能な未来を志向する施設です。

なぜ、風結いは地域産の木材を使うのか。なぜ、薪ストーブや薪ボイラーを設置するのか。

風結いでは、都会では失われてしまった豊かな自然環境を、次世代に引き継いでいくための活動に取り組んでいます。

淀川水系約1450万人が飲むといわれる琵琶湖の水のおおよそ1/3が、ここ高島市から琵琶湖に注がれています。高島市の人々は先祖代々、自然と共に生きながら、そんな貴重な水を守ってこられました。しかしながら近年の過疎高齢化や人口減少に伴い、かつてのにぎわいが失われつつあります。風結いが建つ安曇川町の中野集落でも集落の行事が縮小され、そのコミュニティ機能の維持を真剣に考えていかなければなりません。

たとえば、風結いのまえにある小さな田んぼは、以前耕作放棄地でした。このわずか三畝(一反の約1/3)の田んぼでは、集落に住む方々に協力していただきながら、無農薬で手作業、天日干しのお米づくりを施設運営当初より続けています。同時に、この集落には昔ながらの伝統食が今も受け継がれており、集落のおばちゃんたちに教わりながら伝統食を作って、昔から今へ伝わる食文化を学んでみる機会を、皆さまに提供(山里交藝学舎)しています。これは高島市の基幹産業である「農」というものや、私たちの未来の体をつくり、その精神にまで影響を及ぼす「食」というものを、見つめ直すための活動でもあります。

また高島市の地域産木材に関していえば、あまり使われないままに放置されているのが現状です。市の森林面積は36,966haで、市の陸地面積の72%を占めていますが、戦後の拡大造林で植林された杉やヒノキといった針葉樹(人工林)も、利用可能な段階を迎えつつあるのに、林業者の高齢化や木材価格の低迷などにより、森に人が入らなくなっています。しかし、「一般的に森林は、水源のかん養、山地災害の防止、地球温暖化の防止、自然環境の保全、保健機能の発揮、林産物の供給など、多面的な機能の発揮を通して市民生活や地域経済に重要な役割を果たしています。このため、森林の適正な整備や保全を図ることにより、森林の有する多面的な機能を持続的に発揮させることが重要」だと【公共建築物における高島市内産材の利用方針】に書かれている通り、「緑のダム」といわれる森林を守ることが、びわ湖の水環境を守ることにつながっています。

私たちは、木をふんだんに使う建築材や石油などの化石燃料に代わる熱エネルギーとして高島市内の木材を利用することで、琵琶湖の水を守ることに少しでも貢献していきたいと考えています。木材の運搬に使われるエネルギーやコストも同時に削減できるため、今後も地域産木材の利用を促進していきたいと考えています。